リベリカとエクセルサは別種 分割背景をnatureの論文をもとに解説

リベリカとエクセルサは別種 分割背景をnatureの論文をもとに解説

近年コーヒー店でも見かけることが増えてきたリベリカとエクセルサですが、学術論文の権威であるnatureで、調査の結果リベリカとエクセルサは別の種であることを支持する論文が発表されました。
※原文では "We demonstrate congruence across genomic, morphological and spatial analyses, and elucidate distinct evolutionary lineages, supporting the division of C.liberica into three distinct species." と記載があるため、分割することを支持するという主張です。

また、上記の2種だけでなく、リベリカと同一と考えられていたクライネイという種も分割の対象とされ、リベリカ系とされていた種は3種として再定義されました。

このブログでは、natureに公開されている論文の情報を元に、リベリカの分割について情報を共有します。

今までの混乱について

引用: AbstractMain を元にAIで作成

これまでリベリカ種の分類は、生産者や消費者、ロースターなどコーヒー関係者の間で長らく混乱を招いてきました。一般的な分類では、リベリカ種は

  • リベリカ(C.liberica var. liberica
  • リベリカの変種のエクセルサ(C.liberica var. dewevrei

※以降はエクセルサではなくデウェブレイと記載します

の2つからなる単一の種とされていました。

しかし、この分類では見た目などの差を十分に説明できていないという指摘があったり、そもそもそれぞれが別の単一種であるという考えを持つ人もいました。

実際にコーヒーを飲む人であれば、C.excelsaやC.liberica、C.liberica var.excelsaなどの表記を見たことがある人もいるかもしれませんが、このように分類が統一されていないことで混乱を招いていました。

このことから「リベリカ種とはどこまでを指すのか?」、「一つの種なのか、それとも複数の種なのか」という根本的な疑問が未解決のまま、各々が種を記載しているという状況が続いていました。

3つの種に分割

引用: A revised species delimitation for Liberica を元にAIで作成

最新の研究で

  • ゲノムデータ
  • 形態学的特徴
  • 地理的分布

の結果がすべて見事に一致することがわかりました。

これにより、これまで1つの種としてまとめられていましたが、明確な差があり、

  • リベリカ(C. liberica)
  • デウェブレイ(C. dewevrei)
  • クライネイ(C. klainei)

の3つの独立した種に分割できると考えることができるようになりました。(論文の主張)

ちなみに、クライネイはこれまでリベリカと同一種と見なされてきた、ほとんど知られていない種です。

ゲノム解析

引用: Fig. 2: Genetic structure and relationships between and within C.liberica (Liberica), C.dewevrei (excelsa) and C.klainei, based on 2,240 exon region SNPs. を元にAIで作成

ゲノム解析は種の分類を明らかにするための作業で、途方も労力をかけて行われました。

私は専門外で完全には理解できなかったですが、分かりやすく3つのポイントでまとめました。

桁違いのデータ量

アフリカ各地から集められた野生種や栽培種など、合計55個体のコーヒーのサンプルのDNAを解析したそうです。

すべての花を咲かせる植物に共通して存在する「重要な遺伝子」をターゲットにしてDNAを読み取り、1つのサンプルあたり平均して約24万8,000文字ものDNAの暗号を解読したそうです。

詳しくは理解できませんでしたが、とにかく大量のデータを扱い、非常に大変な作業だったらしいです。

博物館の古い乾燥した葉からのDNA抽出

この研究で最も大変だった作業らしい「サンプルの調達とDNAの抽出」です。 新鮮な葉を使えばDNAを取り出すのは比較的簡単らしいのですが、今回は過去の歴史的な記録とも照らし合わせるため、世界中の博物館(標本館)に長年保管されていた「古い乾燥標本(押し葉)」からも26個のサンプルを使用しています。

採取されてから長い年月が経ち、カサカサに乾燥した古い葉から分析に耐えうる質の高いDNAを取り出すのは至難の業であり、特殊な手順を用いた大変な手間がかかる作業です。これらに加えて、乾燥剤で保存した葉13個や、種子16個など、状態の異なる様々なサンプルからDNAを抽出して分析にかけています。

目視で確認

最新の技術に頼るわけではなく、DNAの解析結果が現実の植物の姿と一致しているかを裏付けるために、世界中の博物館に保管されている700点以上ものコーヒーの植物標本を直接目で見て、葉の大きさや花の数、実の形などを一つ一つ手作業で計測・比較しています。

形態的差異(見た目の違い)

引用:  Extended Data Fig. 2: Leaves of C. liberica (Liberica) and C. dewevrei (excelsa) Extended Data Fig. 3: Fruits of C. liberica (Liberica) and C. dewevrei (excelsa) /   Extended Data Fig. 4: Fruits and flowers of C. liberica (Liberica) and C. dewevrei (excelsa) を元にAIで作成

見た目からも簡単に区別できるそうです。

デウェブレイ

  • リベリカに比べて葉が長く幅広で、節あたりの花や果実の数が多くなる(よく聞く葉が丸いという特徴)
  • 花びらは通常5個(リベリカは6〜9個)であり、リベリカよりも果実が小さい
  • 果肉やパーチメントが薄く(平均0.31mmに対しリベリカは0.57mm)、種子も小さい

クライネイ

  • 葉などの全体的な形態はリベリカに近いものの、花のつき方に柄がなく枝分かれしない
  • 一つの花序につく花や実が通常1〜3個と少ない
  • 果実が楕円形

地理的隔離

※引用l: Fig. 3: Distribution map for indigenous (wild) C.liberica (Liberica), C.dewevrei (excelsa) and C.klainei を元にAIで作成

3種の自生地は明確に分かれており、互いに交わらない分布を示しています。

  • リベリカ: 上部西アフリカの平均標高386mの低地に分布。
  • デウェブレイ: 中部アフリカの平均標高653〜654mの中〜高地に分布。
  • クライネイ: 西中部アフリカの平均標高273〜274mの低地に分布。

特に、リベリカとクライネイの野生個体群は約800kmも離れた地域に存在し、距離的に交わることは到底考えられないらしく、交雑の証拠も見られなかったようです。

以上のことから、リベリカは1つの種ではなく、3つの別の種であると考えるとのことです。
※繰り返しになりますが、論文の主張なので確定しているわけではありません。

野生のリベリカ種は絶滅の危機

引用: Extinction risk を元にAIで作成

ここからは種の分類ではなく、論文に記載されていた補足情報です。

分類するために自生地の調査を行った結果、野生のリベリカ種の生息域は過去のデータと比べて94.8%も減少し、占有面積も92.9%減少していたそうです。

かつては17カ国に自生するとされていましたが、深刻な森林破壊の影響により、現在ではシエラレオネなどわずか5カ国にまで減少しています。

そのため、IUCN(国際自然保護連合)のレッドリストにおける評価を、現在の「低懸念」から「危急(絶滅危惧のカテゴリ)」へと引き上げる再評価が必要とされています。

クライネイについても、占有面積が極めて小さく、同様に絶滅の危機に瀕している可能性があるとのことです。

実は生産量は0.01%以下

インターネットなどでは「リベリカ種は世界のコーヒー生産量の1〜2%を占める」と記載されることがよくありますが、natureの論文は、これが19世紀後半の古いデータに基づいた誤った情報であると指摘しています。現在の世界生産量は年間1,000トン未満と推定されており、これは世界のコーヒー輸出量のわずか0.01%にすぎません。世間で思われている以上に、現在では希少な存在となっています。

気候変動に適応する可能性

引用: Climate parameters / Implications for crop use and development /を元にAIで作成

また、気候変動への適用に関する可能性も示唆されています。

気候変動モデルのデータによると、野生下の平均年間気温は

  • リベリカ: 24.6℃
  • デウェブレイ: 24.4℃

であり、アラビカ種の18.7℃よりもそれぞれ5.9℃、5.7℃も高い数値です。地球温暖化によってアラビカ種やロブスタ種の栽培が適さなくなる地域において、限界を超える耐暑性を持つ2種は将来のコーヒー農業を支える代替種として大きな可能性を秘めています。

とりわけデウェブレイは、

  • 1本の木から採れる果実の数が多い
  • 果肉やパーチメントが薄いため、生豆への歩留まりが良い

という強みがあり商業的な優位性が際立っています。

さらに、種子のサイズや形がアラビカ種に近いため、収穫後の精製や焙煎、パッケージングといったアラビカ種向けの既存設備やプロセスをそのまま活用できるという農業・産業的なメリットを持っています。

まとめ

これまで1つの種として扱われてきた「リベリカ」は、ゲノム解析、形態の比較、そして地理的な分布のすべてにおいて明確に異なる結果が得られ、3つの種に分類できるという主張に至りました。

気候変動に耐えうる優れた特性を持つデウェブレイへの期待が高まる一方で、これら貴重な遺伝資源の源である野生のコーヒー樹は急激な森林破壊によって失われつつあり、産業的利用と並行して保護対策が求められています。

当店でもリベリカ種の取り扱いがありますが、野生のリベリカから採取しているわけではなく、仕入れている農園が育てている木から採取したものを販売しています。

現地では主に飲料として栽培しているリベリカ種や原産のアフリカの遺伝子を色濃く残している原種を隔離したエリアで栽培している木から採取した種子も取り扱っています。

当然ワイルド個体は極めて稀少で、コレクターとしては喉から手が出るような魅力がありますが、自然を破壊することなく持続的に植物を育てることを楽しむことができるように配慮しております。

現在は仕入れと販売で精一杯な状況なのですが、熱帯地域からの植物を仕入れている恩返しとして、植樹なども行いたいと考えています。

自分が良ければ良いという考えではなく、いつまでも植物と遊べるように、自然環境に配慮していきたいと改めて考えさせられました。

論文の情報

Genomic data define species delimitation in Liberica coffee with implications for crop development and conservation

論文公開日:2025/08/08